The rest is silence.



 ある部下の

「見てられないんです。
どうしてあの人はああまでして生きてるんですか。
食べれば吐くくせに無理やり食べてやっぱり吐いて。自分で点滴を打ってるんです。
眠れないのか何日も何日も徹夜で仕事をして、私達が進言して初めて自分が寝てないことに気づくんです。ベットに寝かせても眠れないらしくて睡眠薬を使って。それもだんだん効かなくなっているらしくてどんどん強いものになって。
あの人が今、何種類の薬を服用してるかご存知ですか。
痩せ細って死んでしまいそうなのにそれでも生きているんです。見てられないんですよ、俺たちはもう。
俺たちはあの人が好きです。厳しい人ですが尊敬できる人です。だからあの人のあんな姿はもう見たくないんです。
お願いします。あの人を助けてください。お願いします。
・・・・・・それが無理なら、せめて死なせてあげてください。
すいません。出すぎた真似をしていることは分かっています。不敬罪で罰せられても構いません。だから、どうかあの人を頼みます」





 ある馴染の命令

「お前、もうちょっと自分のことを気遣ったらどうだ。普通なら下手しなくても死んでたそうじゃないか」
「あの時点ではこうするのが一番軍のためになると思ったからしたまでです。生きて帰ったんだから問題はないでしょう」
「問題あるっつーの。いいか?お前も俺の民だ。つまりお前は俺のものってことだ。俺の許可なく死ぬことは許さんぞ」
「無茶苦茶ですねぇ。俺のとかやめてください。気色悪い」
「よしよし。じゃあ嫌がらせになるな。俺のジェイド」
「本気でやめてください。だいたい軍人に向かって死ぬなって無茶言わないでください」
「無茶だろうが何だろうが、とりあえず生きろ。というかお前は自分のことをおろそかにしがちだから自分が生きることをなにより優先するくらいでちょうどいいだろ」
「そんなに言わなくても自殺願望はありませんから」
「自殺願望はないだろうが、生に対する執着もないだろ。まあようするにお前は生きてりゃいいんだよ。岩にかじりついてもな。幼馴染の命令なんだからちゃんと聞けよ?」
「はぁ、まったくしょうがない人ですねぇ。・・・・・・善処はしますよ」








    <どうこく> 

  「ルーク、私は・・・・・・ ・・」








 伯爵の沈黙

「なぁガイラルディア。俺はどうすればいいんだろうな」
「・・・・・・・・・」
「あいつは壊れてしまった。受け答えもちゃんとしてる。任務も以前道理にこなしてる。それでもあいつの魂はきっともう壊れてしまったんだろう」
「・・・・・・・・・」
「本当は死なせてやるべきだったのかもしれないな。ルークが逝ったあの日に」
「・・・・・・・・・」
「俺のせいなんだ。あいつは変なところで律儀だから、今も俺との約束を守り続けている。生きようとしている」
「・・・・・・・・・」
「死んだほうが楽なんだろうな。でも、俺は嫌なんだ。あいつらだけだったんだ。この国で俺を俺として見てくれたのは」
「・・・・・・それでも。俺がいますよ、陛下」





 ある皇の決断

「なんですか、陛下。いきなり呼び出したりして」
「ちょっと、お前に伝えたいことがあってな」
「家畜の名前だったらガイラルディアでいいと思いますよ」
「・・・・・・ジェイド、もういいんだ」
「なにがですか」
「悪かったな、長い間縛り付けて。約束を覚えているか?」
「・・・・・・・・・」
「俺の許可なく死ぬなと、何をしても生きろと、昔そう約束したな」
「たしかにそんなこと言ってましたね。もう10年位前ですか」
「だが、もういい。お前をお前に返すよ」
「どういう意味ですか」
「お前の命だ。お前の好きなとおりに使え。ルークの元にいこうが、このまま軍にいようが好きにしろ」
「陛下・・・」
「もう、いいんだ。俺は大丈夫だ」
「・・・・・・・・・」
「ジェイド、死にたいなら死んでもいいんだ





 ある死霊使いの決

「いくのか?ジェイド」
「はい。仕事の引継ぎは終わりましたし、別れも済ませました」
「そうか。ではマルクト軍第三師団師団長 ジェイド・カーティス大佐。ピオニー・ウパラ・マルクト九世の名においてただいまをもってマルクト軍籍から除名する。異論はないな?」
「はい。・・・ありがとうございます、陛下」
「ああ」
「じゃあ、いきます」
「ああ」
「・・・・・・さようなら、ピオニー」
じゃあな、俺のジェイド







 ある男の

男はタタル渓谷にいた。
一面にセレニアの花が咲いた丘に一人で空を見上げて立っていた。
荷物はなく、足元に使用された注射器が落ちている。
足に力が入らず崩れるように倒れた。
それでも目だけは空を見つめる。
先ほど人為的に音素を乖離させる薬を注入した。あと数分で男は欠片も残さず消滅する。
すでに右腕の姿はない。

「ルーク、いま貴方の元へいきます」

そして男は幸せそうに笑うと 空 に 溶 け た 。




あとは沈黙のみ。<ウィリアム・シェイクスピア>